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60周年記念シンポジウム パネルディスカッション

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テーマ:イノベーションが未来を変える
世界をリードする先端科学者の育成

モデレータ:
横山 広美様(東京大学大学院 准教授)
パネリスト:
根岸 英一様(米国パデュー大学 特別教授 第5回生(1957年)帝人奨学生) 澤本 光男様(京都大学大学院 教授 帝人奨学会 評議員) 川合 眞紀様(理化学研究所 理事 東京大学大学院教授) 吉田 直紀様(東京大学大学院 教授 第45回生(1997年)帝人奨学生) 近藤 史郎様(帝人グループフェロー)

自分自身の軸を持ち、研究を続ける

横山:
本日は科学技術の分野で活躍されている方をお招きし、「世界をリードする先端科学技術者の育成」というテーマについてお聞きします。まず始めに、優れた研究成果を生み出すためには何が重要か、というテーマでお伺い致します。
根岸:
私がまず強調したいのは「アイデア」。夢やニーズ、豊富な知識など重要なことはいくつかありますが、研究テーマへのアプローチに関する基本的なアイデアは、誰からも出てきません。どれだけ自分で考え抜き、アイデアを出すことができるのか。若い方には、ぜひ自分のアイデアにこだわって欲しい。
次に重要なのは、それは体系的かつ長期的に研究テーマを探求すること。研究テーマによっては、一ヵ月経っても全く結果が出ないことはよくあります。その際に、結果の出ないテーマに関しては一度棚上げし、他のテーマを研究しながらアイデアを練り続けろということです。私の場合、17年の月日を経て成果を挙げた研究もあります。時には神様に祈りながら、長期的な視野で研究を続けることで、新たな発見、つまり研究成果を出すことができるのだと思います。
澤本:
幅広い分野への好奇心。それが優れた結果を出すために必要だと思います。私は60歳を過ぎた今でも、小説や海外の文化、語学など多くのことに興味を持っています。興味の広がりとともに重要なのが、自分の研究方法での結果にこだわること。他人の真似をしないというこだわりの強さ、独創性を身に付けると、研究者としての幅も広がると思います。そして忘れてはいけないのは、謙虚さ。プレゼンの上手さや押しの強さなどを磨くのも必要ですが、なにより相手に尊敬される人格をまず身に付け、広く見識を深めていくのが大切です。
川合:
私が、何を考え、日々研究をしているのかを答えとさせていただきます。1点目は、自分自身に問うているのは、根本的な原理を変える発明をしているのか。私もできているかどうか怪しい部分ではあります。2点目は、リーディングコンセプトに対する証拠の提示ができているか。これについて、私は実現していると答えることができます。最後に、世界から最も求められていることですが、社会に役立つイノベーションを起こすことができているのか。自己満足レベルでは実現できていますが、市場開発の目線で見ると満足できるレベルには至っていません。
横山 広美様(東京大学大学院 准教授)
モデレータの横山様には
議論をリードしていただきました。
根岸 英一様(米国パデュー大学 特別教授)
優れた研究結果を生み出すには何が重要か
吉田:
若手研究者の立場で、お話しさせて頂きます。博士の学位を取得してしばらく経つと、自分の得意技を身に付け、他人の研究手法に疑問を感じるようになります。そしてある気持ちを抱き始めます。それは、その研究をよりよい手法で、自分の手で行いたいという思い。若手研究者は、まずこの気持ちを持つべきだと思います。また、若手研修者の中には研究費が少なく、思うように研究ができずに悩んでいる方もいるかもしれません。そんなときは、「ゆっくり考える時間」ができたと捉え、じっくり腰を据えて研究について考えを巡らせて下さい。
そして最後に伝えたいのは、よい研究成果を出し、さらに優れた研究をするためには、自分の研究を世界に認めさせなければなりません。そのために海外遠征を行い、世界各国で研究発表を継続して行う必要があります。私も現在、月に1回程度は続けています。
近藤:
私は企業で働く研究者の視点で、お話しさせて頂きます。第一に必要なのは目標軸を持つこと。医薬品に例にとると、まずは現在、有効な治療法が確立しておらず、患者さんから強く望まれているアンメットニーズは何か、そしてどのように解決すべきなのかを明確にしなければ、研究の方向性は定まりません。次に、時間軸。定めた目標をいつまでに、どんなことを達成するのかを予め決めておかなければなりません。そして、最後に挙げたいのは、研究成果に納得性を持たせるための情報収集です。自ら足を運び、患者さんや医者の話を聞き、論文や資料だけではわからない情報を得ることです。頭で稼ぐ情報と足で稼ぐ情報を分けて捉え、情報収集をしてもらいたいと思います。

文化の違いや言葉の壁を恐れず、海外へ進出しよう

横山:
若手研究者の教育や海外への進出についてお伺い致します。
根岸:
私が常日頃から申し上げているのは、「若者よ、海外に出よ」ということです。これは帝人の大屋元社長から伺い、私も大きな影響を受けた言葉ですが、今や研究者にとって国境はありません。世界各国で活躍できるのです。どこで最新の研究が行われていて、目標を達成するために必要な場所はどこなのか。これをしっかりと自らに問うべきです。確かに語学力や食文化など、私も海外に出たばかりの頃は苦労しました。しかし、毎日朝から晩まで英語に触れ続けることで、理解できるようになります。語学力、とくに英語力を身に付けることで、世界の研究者と対等に話ができ、自分たちの活躍のフィールドが広げられます。小学校で英語教育を取り入れたことは、とても素晴らしいと思います。
澤本:
日本では過去、遣唐使や遣隋使を利用して、海を越えて知識や文化を国内へ伝達し、近代医学ではヨーロッパに多くを学んだ歴史があります。私たちが学生の頃までは、自ら海外へ出て多くを学びたい人が多かったのですが、現在は、手厚い留学制度などが国や学校から用意されているにもかかわらず、年々海外留学を志望する学生が減少しています。さまざまな国の人たちと交流し、研究だけではなく言語や私生活などの文化の違いを肌で感じ、人として一皮むける。それが研究者としてステップアップするために必要だと思います。
吉田先生は「海外で自分の研究を認めさせることが必要」というお話をされていました。そうなると海外の研究者と交流する機会が多いと思いますが、文化交流の点ではいかがですか。
澤本 光男様(京都大学大学院 教授)
川合 眞紀様
(理化学研究所 理事 東京大学大学院教授)
吉田:
海外で博士の学位を取得し、米国でポスドクをしていたので、さまざまな研究室で多くの国の人と接する機会がありました。やはり私生活において文化の違いを感じることは多かったです。そして実は、それが研究に対してのアプローチの違いにあらわれていたんです。海外で研究し、文化の違う研究者と議論を重ね、そしてさまざまなアプローチ方法を学んだことは、大変貴重な経験です。とくに私が研究している宇宙や素粒子の分野は、「ビッグサイエンス」と呼ばれ、多いときには一つのプロジェクトに約2,000人の研究者が関わります。世界の研究者との共同研究が避けられない環境に置かれている現在、これまでの経験が非常に役に立っています。
横山:
私もロシア人やアメリカ人、中国人など150人を越える研究者と大部屋で議論を交わしたことがあります。文化も言語も違う。そんな環境の中、一つの答えを導き出す難しさを感じました。これからの研究者は、そのような環境が当たり前になってくると思います。
川合:
確かに学問の視点から見ればグローバル化は避けては通れないと思います。しかし、日本の国としてどこまでグローバリゼーションを実現できているのでしょうか。留学をしたいが、3〜4年留学した後、果たして民間企業への就職は叶うのか、どのような働き方ができるのかわからないなどの不安要素が多く、なかなか留学を決断できない学生が多いと感じています。産学官が三位一体となって、帰国後の学生の企業の受け入れ体制を整えなければ、若者の海外進出を今まで以上に増やすことはできないと思います。アジア各国、とくに中国を見習い、海外で学び、技術を国へ持ち帰って活躍する。そんな制度を整えるべきです。
澤本:
私も同感です。考えなければならないのは、語学の教育。小学校から英語の教育を始めるのか、まずは日本語を学ぶべきなのか、意見が分かれるところだと思います。しかし、最も大切なのは上手に英語や日本語を話せるかではなく、相手と同じレベルの研究に対する知識や技術を身に付けることです。そして、その内容を恐れずに相手に伝える。拙くても思いは伝わりますから。
横山:
企業における若手研究者の活用についてはいかがでしょうか。
近藤:
帝人で働く若手研究者については、海外有力大学や研究所への短期留学を積極的に行っています。現在、企業側が考えなければならない課題は、ポスドクをどう受け入れるか。企業側は、専門分野に限らず、さまざまな分野でポスドクの知識や技術を活かせる方法を考えなければなりません。また、ポスドクの方も、一つの企業で自分を活かし続ける道だけではなく、今後のキャリアを見据えて経験を積みながら、専門性を広げていく考え方も必要ではないかと思います。

若手研究者には専門性を超えて活躍してほしい

横山:
次は、これから研究を志す学生や博士課程で研究者の道を歩もうとしている人に伝えたいことをお伺い致します。
根岸:
企業でも研究室でも、常に自分に忠実であり続けることが大切だと思います。どんな結果になろうと、全て自分の責任である。そう考えて研究に取り組むことで、失敗したときも再スタートが切りやすいと思います。
澤本:
近年、博士課程に進む学生は減少し、修士課程で卒業し、企業で就職する学生が増えています。企業側も博士課程よりも、修士のほうが企業への貢献度が高いと考えている。加えて、博士課程に進んだ人はコミュニケーションが苦手である、専門性に固執する堅さがあるなどのイメージが強いため、なかなか博士課程の学生やポスドクを採用しづらいのが現状です。
この課題を解決するために必要なのは何か。それは「T型」と呼ばれる幅広い知識を学生の頃から身に付けることです。大学の教育ではそこが足りない。課題発見能力の高さに加えて、専門性の幅広さが身につけば、企業の活用も広がると思います。
吉田 直紀様(東京大学大学院 教授
第45回生(1997年)帝人奨学生)
近藤 史郎様(帝人グループフェロー)
川合:
海外の多くの国の機関では、博士の学位を取得している人が大勢働いています。必ずしも専門性を活かしているわけではなく、他の分野で活躍されています。そんな現状を目の当たりにすると、他の分野で活躍できる、専門性の高い人材は他にも大勢いるのではないかと感じます。澤本先生がおっしゃっていたように、大学の教育が専門性を限定してしまい、自ら活躍できるフィールドを決めつけている部分があると思います。欧米では社会活動を体験できるインターンシップなどの制度が充実しており、企業で働く前にさまざまな世界を体験できます。日本は欧米諸国の取り組みを参考に、学生に新たな道を提示する努力をすべきです。
根岸:
澤本先生、川合先生に同感です。米国では企業の研究職に就くには、博士の学位が必要ですが、日本では修士の学位が中心です。より専門性の高い人をどのように活かすのか。博士課程に進んだ学生が学位取得後、ポスドクになるのか企業で働くのか、選択できるようにしなければならない。それが日本の課題だと思います。
澤本:
それには学校側の努力と、日本の企業のお力添えが必要となってきます。博士の学位を取得しても、学問の世界で活躍できる人は限られます。博士の学生に対して、企業が高い専門性を活かす場を提供する。そんな仕組みづくりを実現すれば、博士課程に進む学生を増やし、就職難に苦しむポスドクの数も減らすことができるのではないでしょうか。学校側は学生に幅広い専門性を身に付けさせ、社会活動を経験させるなどの取り組みを実施する努力をしていきます。
川合:
吉田先生の研究分野は専門性を越えて活躍されている方が多いと思いますが、いかがですか。
吉田:
そうですね。専門にこだわらずに、さまざまな分野で活躍したい人は多いと思います。学問の分野では専門を越えて活躍している方が大勢います。産業界でも同じだと思いますので、ぜひ目を向けて欲しいですね。
近藤:
企業代表として、皆さまのご意見を真摯に受けとめたいと思います。博士の学生との面接で感じるのは、修士の学生より自分で考え、意思決定できる力があります。専門性に固執している人が少ないという印象もある。ただ採用には至っていないケースが多いのも事実です。そんな中、企業側からお願いしたいのは、専門性の高い分野をもう一つ増やして欲しい、つまり「π(パイ)型」の人材を育成していただきたい。企業で活かせる可能性がかなり高まります。またポスドクの方を私たちが評価するポイントは、研究に対してどのようにアプローチをして、成果を出してきたのかということ。現在のポスドクは、早く結果を出したいがために、大きな構想を持って研究している人が少ない。いわゆるペーパー主義の考え方を変え、より革新的な実験手法を試みる人を増やしていかなければならないと思います。
横山:
皆様ありがとうございます。「イノベーションが未来を変える 世界をリードする先端科学技術者の育成」というテーマでパネルディスカッションを行って参りました。日本がもっと強くなり、世界の科学技術をリードできるような存在になるためには、本日のお話は非常に参考なることばかりでした。皆さまにも共感頂けるお話が多かったのではないでしょうか。本日はどうもありがとうございました。